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宇都宮地方裁判所 平成5年(ヨ)38号 決定

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別紙当事者目録記載のとおり

右当事者間の平成五年(ヨ)第三八号労働契約上の地位確認等仮処分命令申立事件について、当裁判所は、債権者らに担保を立てさせないで、次のとおり決定する。

主文

一  債務者は、別紙当事者目録一番ないし九番の各債権者に対し、平成五年三月から同六年二月まで、毎月二九日限り、別紙賃金目録一記載の金員を仮に支払え。

二  債権者らのその余の申立を却下する。

三  申立費用は、これを三分し、その二を債務者の、その余を債権者らの負担とする。

事実及び理由

第一申立の趣旨

一  別紙当事者目録(略)一番ないし九番の各債権者が、債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、別紙当事者目録一番ないし九番の各債権者に対し、平成五年三月から本案判決確定に至るまで、毎月二九日限り、別紙賃金目録二(略)記載の金員を仮に支払え。

三  債務者は、債権者全国一般労働組合栃木地方本部正和機器支部の組合員が、(住所略)所在の債務者鹿沼工場内にある同債権者の事務所に立ち入ることを妨げてはならない。

第二事案の概要(争いのない事実)

一  別紙当事者目録一ないし九番の各債権者(以下「被解雇債権者ら」という。)は、いずれも債務者との間で、期間の定めのない労働契約を締結し、債務者から解雇予告がなされた平成五年二月二日まで債務者に勤務し、毎月二九日の支払日に賃金を得ていた。

別紙当事者目録一〇番の債権者(以下「債権者組合」という。)は、栃木県内の中小企業で働く労働者によって組織されている個人加盟の労働組合である全国一般労働組合栃木地方本部の支部組合であり、被解雇債権者らによって構成されている。

債務者は、産業機械、器具、部品の製造加工並びに販売等を営業目的とするが、主に潤滑給油装置及び油圧機器等を製造する資本金一億七二八〇万円の会社で、肩書地に本社を置き、埼玉県大宮市(住所略)所在の大宮工場、栃木県鹿沼市(住所略)所在の鹿沼工場を有していた。

二  債務者は、平成四年一〇月二二日、当時の鹿沼工場で勤務する従業員によって構成されていた正和機器鹿沼工場労働組合(以下「鹿沼労働組合」という。)との団体交渉において、潤滑・油圧機器の受注生産高が減少したために経営規模を見直すとして、<1>大宮工場と鹿沼工場を統合し、鹿沼工場を同五年一月末日を目処として閉鎖すること、<2>鹿沼工場閉鎖後の大宮工場の人員規模を正式従業員一〇〇名とし、余剰人員となる四六名を両工場の正式従業員から希望退職者として募集することを骨子とする「会社再建に関する提案」を行った。

三  その後、鹿沼労働組合と債務者との間で、数回にわたって団体交渉が行われ、債権者組合は、<1>希望退職者の募集は、本社社員及び大宮工場のパート労働者も対象とすべきこと、<2>大宮工場と鹿沼工場の縮小・再編成を検討すべきこと、<3>政府の「雇用調整助成金」等を活用して従業員の雇用の安定に努めるべきこと、<4>経営陣の責任を明確にすべきこと等を主張し、平成五年一月二〇日の時点で交渉は平行線をたどり、合意に達しなかった。

四  債務者は、平成五年一月一八日から同月二七日まで転勤希望者及び希望退職者の募集を実施し、併せて同月二一日及び同月二二日に希望する者に対して個人面談を行った。

右希望退職者募集に応じた者は鹿沼工場で五三名であり、大宮工場では、定年が間近に迫った二名の従業員がこれに応じた。

五  鹿沼工場で働いていた被解雇債権者らを含む一三名の従業員は、平成五年一月二七日までに転勤希望・希望退職のいずれにも応じなかったところ、債務者は、同年二月二日に、同年一月末日をもって鹿沼工場を閉鎖することに伴い、同年二月一二日付をもって解雇すること、右解雇は、就業規則において解雇事由について定められたもののうち、「やむを得ない会社の業務上の都合によるとき」(同規則二二条四号)に基づくものであること、同月二日から同月一二日までは解雇予告手当相当額として賃金を全額保証することを通知した。

六  債務者は、右解雇予告通知をした平成五年二月二日、栃木県地方労働委員会に対し「平成五年一月末日で鹿沼工場を操業停止、閉鎖したことにともないこれに応じない『社員』の取扱い」を調整事項として斡旋を申請し、地方労働委員会において同月八日、一九日に斡旋が行われた。その間に、債務者は、被解雇債権者らに対し、同月一〇日付通知書によって解雇日を同月二〇日まで延伸し、さらに同月二〇日付内容証明郵便により解雇日を同年三月五日まで延伸したため、被解雇債権者らは、最終的に同日付で債務者から解雇された。

七  債務者は、平成五年一月一八日、鹿沼労働組合に対し、民法五九七条二項に基づいて同年二月一九日限りをもって、組合事務所の返却を求め、同年二月二日に解雇予告通知を行ったときにも、併せて組合事務所への立入りを二月一九日までは認める旨を通知した。

第三争点及び当事者の主張

一  債権者組合と鹿沼労働組合との同一性

【債権者ら】

全国一般労働組合栃木地方本部は栃木県内の中小企業で働く労働者によって組織されている個人加盟の組合であるが、昭和四九年二月一九日にその支部組合として組織されたのが鹿沼労働組合であり、本件解雇をめぐる紛争を機に平成五年二月一日に現在の名称に変更されたにすぎないから、同労働組合と債権者組合は同一である。

【債務者】

債権者組合は、平成五年二月一日に新たに組織された労働組合であり、従前の鹿沼労働組合とは別組織である。

二  本件解雇予告の労働基準法二〇条違反の有無

【債権者ら】

労働基準法二〇条は、使用者が労働者を解雇する場合には、三〇日前に解雇予告を行うかその期間の解雇予告手当てを支払うかして解雇せねばならない旨定めているにもかかわらず、債務者は、平成五年二月二日に一〇日後の解雇予告をしながら一〇日分の解雇予告手当てを支払うと通知したにすぎないのであるから、本件解雇は同条に違反し無効である。

なお、被解雇債権者らに対する解雇は、右解雇予告された日から二回にわたって延伸され、最終的に同年三月五日付で解雇されたが、これらの事実によって右本件解雇の瑕疵が治癒されるものではない。

【債務者】

債務者は、被解雇債権者らを解雇するにあたっては、労働基準法二〇条に規定する予告日数に不足する分についても解雇予告手当を支払う予定であったのであるから、同条違反はなかった。

三  解雇権の濫用

【債権者ら】

被解雇債権者らに対する解雇は、使用者側の経営事情により生じた労働者数削減の必要性に基づいた余剰労働者の解雇として行われたいわゆる整理解雇であるから、<1>整理解雇の必要性、<2>整理解雇回避の努力、<3>人選の合理性、<4>労働者側との協議という四要件を満たさない場合には解雇権の濫用として無効になる。

ところが、本件解雇については、<1>債務者の経常収支において赤字を計上したのは平成四年三月期が初めてであり、このような単年度の赤字のみで従業員を解雇する必要性はない上に、債務者が提案した希望退職者の募集人員を上回る希望退職者があったのであるから、さらに従業員を解雇する必要性はなかったこと、<2>予定していた人員を超えた希望退職者があったにもかかわらず、その事実を前提とした整理解雇回避の努力は全く行わなかったこと、<3>大宮工場について、パート労働者を希望退職の対象とせず、整理解雇もしていないのは不合理であること、<4>債務者は鹿沼工場の平成五年一月末日の閉鎖に固執し、債権者組合との誠実な協議を行わなかったこと等の事実からすれば、本件解雇は解雇権の濫用に当たり、無効というべきである。

【債務者】

債務者は、鹿沼工場の閉鎖を決定したことにより、同工場を勤務場所として労働契約を締結していた従業員に対して、労働契約を解約せざるを得なくなった。そのために、直ちに解約措置を取ることなく、転勤希望及び希望退職者募集を行って、これに応じない者に対して解約せざるを得ない旨の意思表示(法理的にはいわゆる変更解約告知)を行ったのであるから、余剰人員の削減を目的とする整理解雇とは異なる措置であり、整理解雇についての要件は本件解雇には適用の余地がない。

なお、<1>債務者の売上高は三六期(平成元年一一月期)をピークにして、四〇期(平成五年三月期)にはその半減状態となり、大宮・鹿沼両工場の稼働率も五〇パーセント以下となり、今後も業績が回復する見込みがないという状況であったから、大宮・鹿沼両工場の併存は不可能であったこと、<2>債務者は、希望退職者や転勤希望を募集するに際しては、その条件に関する債権者組合の要求を全て受け入れて最大限の譲歩をしたにもかかわらず、被解雇債権者らは、鹿沼工場閉鎖に反対する姿勢を崩さずに、いずれにも応募しなかったこと、<3>本件解雇は鹿沼工場閉鎖に伴って、同工場に在籍する従業員全員に同工場からの離職措置を取らざるを得なかったことに基づく措置であるから、解雇対象者の人選を問題にする余地はなかったこと、<4>債務者は、債権者組合との一一回に及ぶ団体交渉等において、組合が求める資料をすべて提示し、転勤者の通勤方法や希望退職条件について、すべての要求に応じるなど誠実に対応していたこと等の事実からすれば、本件解雇は有効になされたものというべきである。

四  不当労働行為

【債権者ら】

鹿沼工場閉鎖の提案は債権者組合を弱体化・消滅させるためのものであり、それに続く被解雇債権者らの解雇も債権者組合の組合員であることに基づいてなされたというべきであるから、労働組合法七条一号に違反する不当労働行為である。

【債務者】

本件解雇は鹿沼工場の閉鎖という業務上の必要性から行われたものであって、不当労働行為にあたるような事実はない。債務者は、これまでも鹿沼労働組合が結成されて以来、同組合との交渉を続けてきたのであり、これを否定するような態度に出たことはなく、今回の転勤希望に応じて転勤した者についてもその組合籍には何ら言及していない。

五  組合事務所の使用権

【債権者ら】

被解雇債権者らに対する解雇は無効であるから、なお債権者組合は組合事務所を使用する必要があるというべきであり、使用収益を終えたとしてその明渡しを求める債務者の主張は理由がないというべきである。

【債務者】

債務者は、債権者組合に対して組合事務所を貸与したことはなく、鹿沼工場の閉鎖に伴って、組合事務所として使用されてきた建物の明渡しを求めたものである。

第四当裁判所の判断

一  債権者組合と鹿沼労働組合との同一性について

1  疎明資料(<証拠略>)によれば、以下の事実が一応認められる。

鹿沼労働組合は、事務所を鹿沼市(住所略)の債務者鹿沼工場内に置き、同工場内で働く労働者によって組織され、その規約五二条で解散について定めていたが、その手続は現在まで取られていない。

債権者組合は、平成五年二月一日、債務者に対して、「組合の組織変更について」と題する書面を送付し、その中で、従来の組織(単位労働組合)から全国一般労働組合栃木地方本部・正和機器支部に組織変更することと役員の氏名を通知するとともに、新たに全国一般労働組合栃木地方本部正和機器支部運営規則を定め、事務所を鹿沼労働組合と同じ鹿沼市(住所略)に置くこと、構成員を組合の執行委員会で決定した者とすること、機関として支部大会及び支部執行委員会を設置すること、役員及びその選出方法、組合活動の経費を組合員が負担すること等について規定を設けた。

鹿沼工場における希望退職の募集が行われるまでの鹿沼労働組合の組合員数は六六名であったが、その多くが右希望退職等に応じたために同組合を脱退し、脱退せずに残った組合員一三名により債権者組合が組織された。但し、委員長、副委員長、書記長、会計等の主な役員には変更がなく、現在の債権者組合の組合員は全員鹿沼労働組合に加入していた。

2  右認定の事実によれば、鹿沼労働組合は債務者内の企業(工場)単位に組織された単位組合であったが、本件紛争を契機として一般組合である全国一般労働組合栃木地方本部の下部組織(支部)へと組織変更されたと解される。ただ、右組織変更後も特定の構成員により組織され、代表の方法、総会の運営、財産の管理等について規約によって定めている独立の社団であり、鹿沼労働組合のうち希望退職等に応じずに残った組合員により組織され、役員等も共通であること、事務所も同じ場所に設置していること等の事実からすれば、鹿沼労働組合と債権者組合とは実質的に同一の団体と解するのが相当である。

二  本件解雇の労働基準法二〇条違反の有無について

1  債務者が、被解雇債権者らに対して、平成五年二月二日、同月一二日付をもって解雇することとし、同月二日から同月一二日までは解雇予告手当相当額として賃金を全額保証することを通知したこと、債務者が右解雇予告と併せて栃木県地方労働委員会に斡旋を申請したこと、右労働委員会による斡旋は同月一九日まで二回行われたこと、右労働委員会による斡旋が行われるのに合わせて被解雇債権者らに対する解雇日も延伸され、最終的に同月五日付で解雇されたことの各事実は当事者間に争いがなく、疎明資料(<証拠略>)によれば、同年三月四日に三回目の斡旋が行われたが、最終的に債務者が申請を取り下げたことが認められる。

2  使用者が労働基準法二〇条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで解雇の通知をした場合には、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の期間を経過するか、通知後に同条所定の予告手当を支払ったときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生じると解するのが相当である(最高裁昭和三〇年(オ)第九三号同三五年三月一一日第二小法廷判決・民集一四巻三号四〇三頁)。

右事実によれば、債務者は、平成五年二月二日に被解雇債権者らに対して一〇日後の解雇を通知したものの、その後自ら申請した地方労働委員会による斡旋が行われるのに合わせて自主的に解雇日を延伸していたのであり、右二月二日に予告した同月一二日付での解雇に固執していたものとは認められないから、当初の通知から三〇日を経過した同年三月五日付でなされた解雇には同条違反はない。

三  解雇権の濫用について

1  本件解雇に至る経緯は、概ね前記第一「事案の概要」二ないし六記載のとおりであり、即ち、債務者は、業績の悪化により事業規模を縮小する必要があると判断し、鹿沼工場を閉鎖して大宮工場に統合し、工場に勤務する従業員を一四六名から一〇〇名に削減することを決め、そのため両工場の従業員に対して希望退職者を募るとともに閉鎖される鹿沼工場の従業員に対しては併せて転勤希望者を募集したところ、合計五三名の希望退職者と四名の転勤希望があったものの、被解雇債権者らを含む一三名についてはいずれにも応じなかったことから「やむを得ない会社の業務上の都合によるとき」を理由に解雇手続に踏み切ったというものである。

債務者は、本件解雇の法的性質について、債務者と被解雇債権者らとは鹿沼工場を勤務地とする労働契約を締結していたのであり、同工場の閉鎖によって当然に労働契約は終了するところ、債務者は、同工場を閉鎖し、それに伴って、被解雇債権者らに対し、大宮工場を勤務地とする新たな労働契約締結の申込を伴った解約告知を行ったと主張する。

しかし、本件全疎明資料によっても債務者と被解雇債権者らとの契約が勤務地を鹿沼工場に限定するものであったと認めることはできず、かえって、疎明資料(<証拠略>)によれば、債務者は、鹿沼工場閉鎖に際して、その同工場に勤務する従業員に対し、従前の労働契約の存続を前提に勤務地のみを変更する転勤希望者を募集したこと、それについては、就業規則において、会社が社員に対してその就労場所の変更を命じることができる旨定めていた(同規則一二条)ことが認められるから、債務者の右主張はその前提を欠くものであって採用できない。

そうすると、本件解雇は「会社の業務上の都合」によって労働者の生活の基盤を破壊するものであることから、解雇権の濫用を判断するにあたっては、<1>企業の経営維持のために人員整理を行う合理的必要性があったこと(人員整理の必要性)、<2>右人員整理達成のために解雇以外の手段がなかったこと(解雇回避の努力)等の点を考察することによって行う必要がある。

2  人員整理の必要性について

(一) 疎明資料(<証拠略>)によれば、以下の事実が一応認められる。

(1) 債務者は、産業機械(潤滑給油装置、油圧機器等)の製造、加工及び販売を主な業務とし、オークマ、牧野フライス、日立精機、日産自動車等の工作機械メーカーや自動車産業が中心的な受注先であった。

債務者は、昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇までの三六期には五一億円を越える売上があり、約一億八一二四万円の当期利益を計上し、三八期(平成二年四月一日から同三年三月三一日まで)はなお五〇億円余りの売上高で、六三四六万円の当期利益があったが、三九期(平成三年四月一日から同四年三月三一日まで)は売上高が四一億円余りと前記に比べて一〇億円近く減少した。これに対して労務費(賃金給料、退職金等)等のいわゆる固定費は、三八期が一三億二四九九万余円、三九期は一二億九七〇八万余円と三〇〇〇万円足らずの減少にとどまり、二億三四四一万円の当期損失を出すに至った。

このような債務者の売上高の減少は、平成元年以降の景気の低迷により産業界全体の設備投資が控えられるようになったために、主な受注先である工場機械業界でも生産高が減少していることが主な原因であることから、全体的な景気の回復がない限り、売上高が再び増加に転じる見込みはない。

(2) 三九期の資金の移動状況は、現金預金額が前期に対して四億二六〇〇万円の増加になっているが、営業活動等による経常収支が約三三七三万円の収入超過となり、借入や社債発行等の財務関係収支における八億一五二六万円の収入超過と合わせると、設備に関する収支における四億二三〇三万円の支出超過があるものの、全体として約四億二六〇〇万円の収入超過となったと説明できる。このように資金運用上は黒字であるにもかかわらず、決算において損失を計上している大きな理由としては、経常収支の中で減価償却費や貸倒引当金繰入等のように決算報告書においては費用として計上されるものの、現実には出費を伴わないものが合計三億一二三〇万円余りあることと、財務関係収支について六億円の社債発行により資金調達が可能であったことが指摘できる。また、右六億円の社債発行にもかかわらず債務者の自己資本比率(自己資本の資産総額に対する割合)は約二七・九パーセントであり、借入の内容も長期は三八期の約五億八一三六万円から一億四〇〇〇万円余り増加しているが、短期借入額に大きな変動はない。

(3) 債務者は、将来の業績について、四〇期(平成四年四月一日から同五年三月三一日まで)も売上高が前期に比べてさらに減少して三一億七〇〇〇万円程度にとどまり、経常損失も五億〇三〇〇万円と拡大する見通しであることを踏まえ、売上高が向こう三年間三五億円から四〇億円程度であり、現在の経営状態を見直さない場合には、固定費として二〇億円程度は要することから毎年三億五〇〇〇万円ないし四億五〇〇〇万円程度の経常損失を出すことになるとの予測を立てた。

そこで、債務者は、経費の削減と工場の稼働率を向上させるために会社全体の体質改善と業務体制の抜本的な見直しが必要であると考え、鹿沼工場を閉鎖して大宮工場と一本化し、工場に勤務する従業員を定員一〇〇名とするために四六名の希望退職者を募集して人員の削減を行うことによって、固定費を一五億円から一六億円程度に抑えることができ、三年後には経常利益として一六〇〇万円程度を計上できるとの見通しを立てた。

(二) 右認定の事実によれば、債務者は三九期に二億三四四一万円の当期損失を出し、これは三六期の一億八一二四万円の当期利益に比べると大幅な欠損というべきであるが、他方、三九期の資金の運用は現金預金が四億六〇〇〇万円増加したことからも窺われるように結果的には余裕をもって行われたと見ることも可能であり、また、資金調達の方法も社債や長期借入が中心であることからすれば、三九期の時点で企業自体の存続維持が危ぶまれる程度に差し迫った経営状況にあったとまでは認められない。

しかし、右欠損の原因が主に売上高の減少とこれに伴う固定費の負担率の増加にあり、産業界全体の景気の動向から今後もしばらくは売上高の増加が期待できない状況であったことからすれば、このままの状況で放置する場合には欠損がさらに拡大するとともに、信用状態の低下にしたがって資金調達も債務者にとってより不利な条件で行わざるを得なくなり、ひいては会社経営に深刻な影響を及ぼすことになるものというべきである。したがって、債務者がその将来の経営危機を見越して合理化を図ろうとすることは経営者としての当然の措置として是認されるというべきである。また、経営合理化を図る場合に、具体的に考えられるいくつかの方策のうち、いずれを採用するかは経営者の裁量に委ねられており、それが必然的に労働者に対して解雇等大きな影響を与えるものであっても合理的な必要性があれば許されると解される。

本件において、将来的な固定費による収益の圧迫を取り除き、工場の稼働率を高めることによって受注の減少に対応していくために鹿沼工場の閉鎖を決めた判断は、債務者の今後の経営を維持する上で先手を打った方策である面は否定できないものの、有効な人員合理化策として合理的な必要性があったというべきである。

3  解雇回避の努力について

(一) 疎明資料(<証拠略>)によれば、債務者は、鹿沼工場を閉鎖して大宮工場に一本化した上、同工場の受注量に見合った適正定員を一〇〇名と定めて、四六名の希望退職者を大宮・鹿沼両工場から募集し、大宮工場の右定員に不足する人員については鹿沼工場から配転することとして、同工場からの転勤希望を募集したこと、右各募集期間は平成五年一月一八日から同月三一日と定められ(但し、二月一日に応募した場合には期限内と取り扱われた。)、鹿沼工場に勤務する正社員七〇名のうち最終的に四名の転勤希望者と希望退職者五三名の応募があったことの各事実が一応認められる。

右事実からすれば、債務者が経営合理化のために鹿沼工場を閉鎖することによって四六名の従業員を削減する計画は、五三名の希望退職者の募集によって達成されただけでなく、鹿沼工場からの転勤希望者は四名にとどまったために、債務者が「会社再建に関する提案」で計画していた大宮工場の適正定員一〇〇名を満たさないことになり、被解雇債権者らのうちで転勤を希望する者があった場合にはその全員又は一部を大宮工場で勤務させる余地が生じたものと認められる。

(二) その点について債務者は、鹿沼工場が閉鎖された以上、希望退職ないし転勤に応じない以上解雇されることを承知しながら、いずれにも応じることなく同工場閉鎖に反対し続けていたのであるから、債務者としては解雇手続を取らざるを得なかったと主張する。

そこで検討するに、前記第一「事案の概要」及び疎明資料(<証拠略>)によれば以下の事実が一応認められる。

(1) 債務者は、平成四年一〇月二二日に債権者組合との間で行った団体交渉において、鹿沼工場を閉鎖して大宮工場に統合することにより四六名の従業員を削減することを主な内容とする「会社再建に関する提案」を行った。その後、五回にわたって行われた団体交渉の中で、債務者は、鹿沼工場の閉鎖を決定した理由を説明するとともに、債権者組合から提出を求められた製造原価報告書等の書面を提供し、各書面についての説明を行った。

(2) 債権者組合は、同年一二月二一日に開かれた第七回目の団体交渉において、「会社再建に関する提案」に対する意見書を提出し、前記第一「事案の概要」三記載の主張を行ったが、債務者は、同月二八日、右意見書に対し、希望退職者の対象の変更や鹿沼工場の存続等の主張には応じられず、転勤の条件等について検討することを回答した。

(3) 翌平成五年一月一三日に開かれた第九回目の団体交渉では、債権者組合の要求に応じて希望退職者の退職金の増額等が行われたものの、鹿沼工場の閉鎖について意見が対立し合意に至る見込みはなく、債務者は希望退職者等の募集を前記(一)認定のとおり実施することにし、募集に応じない従業員については人事措置を取ることを債権者組合に通知した。

同月二〇日の団体交渉では希望退職者や転勤希望者に対する条件についての交渉が行われ、債権者組合は、希望退職者については退職金を会社都合退職金の五〇パーセント増しとし、協力金等については一〇〇万円を支払うこと、転勤希望者については通勤バスの運行や就労時間を繰り下げること等を要求した。

(4) 債務者は、同月二一日と二二日にかけて希望する従業員に対する個人面談を行って退職等の希望を聴取したが、被解雇債権者らは全員個人面談には応じなかった。他方、債権者組合は、栃木県地方労働委員会に対して斡旋を申請したが、債務者は自主交渉中であることを理由に斡旋を辞退した。

(5) 債務者は、希望退職者等に対する条件について、同月二六日、退職金の加算を五〇パーセント増しとすることや一〇〇万円の協力金支給、転勤希望者については通勤バスの運行や就業時間の変更等債権者組合の要求を受け入れる旨の回答を行ったが、その旨の労働協約を結ぶことは、債権者組合が基本的に鹿沼工場の閉鎖に反対している以上応じられないとして拒否した。

(6) 債務者は、前記第一「事案の概要」五、六記載のとおり、被解雇債権者らに対して解雇予告をするとともに、栃木県地方労働委員会に斡旋を申請した。同年三月二日には全国一般労働組合栃木地方本部の石綱和夫委員長と債務者代表者らによる交渉も行われたが、鹿沼工場閉鎖についての意見対立が解消しなかったために何らの合意にも達しなかった。

(三) 右認定の事実によれば、債権者組合は、平成四年一〇月二二日の第一回の団体交渉において鹿沼工場の閉鎖が提案されてから積極的にこれに反対し続けており、本件のような工場閉鎖の場合には、転勤ないし希望退職に応じない限り雇用が確保されないおそれがあることは通常予想できるところであり、債務者と債権者組合との団体交渉において転勤条件について協議が行われ、債務者は債権者組合の要求を最終的に受け入れたのであるから、被解雇債権者らが転勤を希望しない理由はなくなったと見ることもできる。

しかしながら、転勤についての被解雇債権者らの個々の同意・不同意の意向と鹿沼工場の閉鎖についての反対運動とは別の事柄であり、債権者らは鹿沼工場が存続することを前提に大宮工場への転勤に消極的であったにすぎず、債権者らが鹿沼工場閉鎖に反対であるからといって、被解雇債権者ら各自が最終的に転勤を希望しないことにはならず、被解雇債権者らの中には、鹿沼工場閉鎖反対運動が効を奏しない場合には次善の策として大宮工場への転勤を希望する者が現れる可能性も否定できない。しかも、債務者が希望退職者の募集と大宮工場への転勤の二つの方法により鹿沼工場の閉鎖を実現しようとした当初の経営合理化の計画は、鹿沼工場閉鎖及び一定の人員の削減以外の点についてはあくまでも見込みを踏まえたうえでの予定にすぎず、債権者組合との交渉中に、転勤を希望した者がわずかであって、かつ希望退職者の数が当初の予想を超えたような場合には、そのときどきの状況に応じて修正すべき余地を残した流動的なものである。したがって、債務者は、鹿沼工場の閉鎖を断行した段階で、更に従業員の処遇について検討し、雇用関係が残っていた被解雇債権者らに対し、希望退職するか否か、転勤に応ずる意向があるか否かなどの最終的意向をあらためて確認したうえで、大宮工場への転勤を希望する者が現れた場合には、転勤希望者及び希望退職者の最終的な人数や転勤の可否等を考慮して、最終的に、必要な人員を踏まえて、希望退職を希望しない者、転勤の意向のない者及び転勤の意向があっても転勤させるべきでない者についての人事的措置を決するべきである。

このような状況に応じた検討を怠ってなされた本件解雇は、被解雇債権者らの予期に反する結果をもたらし、場合によっては鹿沼工場閉鎖に反対した被解雇債権者らを、希望退職または転勤の意向を積極的に示さなかったことに乗じて一律に解雇したとの誹りを受けかねない方法によるものであって、債務者の主張するように解雇手続を取らざるを得なかったとは認められず、債務者において解雇権を濫用したものと解すべきである。

四  賃金の仮払請求について

1  債権者山家茂樹を除く被解雇債権者らが、本件解雇前三か月である平成四年一一月から同五年一月までの賃金額(但し、通勤手当を控除した額)を平均すると、それぞれ少なくとも別紙賃金目録記載の額を得ていたこと、賃金の支給日が毎月二九日であったことは当事者間に争いがない。

2  疎明資料(<証拠略>)によれば、債権者山家茂樹が平成四年九月から一一月までの三か月間に得ていた通勤手当を控除した賃金額を平均すると二七万四五九八円となることが一応認められるが、本件解雇前三か月の収入を示す資料は提出されていないことからすれば、債務者が認める二六万九一七四円の範囲で認めるのが相当である。

3  疎明資料(<証拠略>)によれば、被解雇債権者らは、現在三八歳ないし四八歳の男子で、主としてその収入によって家族の生計を支えている者であることが認められるから、解雇された平成五年三月から当面一年間の賃金の仮払を認める必要性がある。

五  組合事務所の使用権について

1  疎明資料(<証拠略>)によれば、債権者組合は、昭和五〇年ころから、債務者の了解を得て組合事務所を使用してきたこと、債務者が、平成五年一月一八日に債権者組合に対して、組合事務所の返却を申し入れるに際して民法五九七条二項を根拠としていることが認められ、これらの事実によれば、債務者と債権者組合との間の本件事務所の利用について使用貸借契約が締結されていたと解される。

2  前記三2認定のとおり、債務者は、経営合理化のために鹿沼工場を閉鎖する必要がありその閉鎖をしたから、債務者が使用貸借関係を終了させる必要があり、債権者組合が同工場において組合活動を続ける理由はなくなったというべきであり、債権者が組合事務所の使用を終えたことを理由とする債務者の返還請求は有効である。

3  よって、債権者らの債務者に対する組合事務所への立入り妨害禁止を求める申立は理由がない。

六  地位保全の仮処分について

債権者らは、賃金の仮払と併せて、債務者に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める地位保全の仮処分を求めているが、このような仮処分は、労働契約上の労働者の中核的な権利である賃金請求権をその仮払によって保全しても、なお債権者にとって看過できない不利益が生じる特別な事情がある場合にその必要性が認められると解すべきである。

本件においては、全疎明資料によっても、このような特別な事情を認めることはできないから、右仮処分の必要性は認められない。

七  以上の次第で、本件申立のうち、被解雇債権者らが、債務者に対し、平成五年三月から同六年二月まで毎月二九日限り、別紙賃金目録一(略)記載の金員の仮払を求める限度において理由があるが、その余の申立は理由がない。

(裁判長裁判官 髙橋一之 裁判官 草深重明 裁判官 森木田邦裕)

<別紙> 当事者目録

(一番)債権者 神山政一

(二番)同 山家茂樹

(三番)同 米山卓男

(四番)同 若林和夫

(五番)同 高村眞

(六番)同 高村通

(七番)同 土沢和道

(八番)同 片庭松夫

(九番)同 石川正

(一〇番)同 全国一般労働組合栃木地方本部正和機器支部

右代表者支部長 神山政一

右代理人弁護士 田中徹歩

同 一木明

同 高橋信正

同 太田うるおう

同 福田哲夫

同 大木一俊

同 小林正憲

同 若狭昌稔

債務者 正和機器産業株式会社

右代表者代表取締役 石井啓祐

右代理人弁護士 高井伸夫

同 山崎隆

同 内田哲也

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